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魚の結核 Tuberculosis in Fishes

(抗酸菌症、Mycobacteriosis, Nocardiosis)


 ネオンテトラの尾の付け根に白い斑点がでてきた。白点病でもなさそうだ。元気がよさそうなので、そのまま経過観察。
しかし次第にその斑点は淡い色になり、そのうちネオンテトラの赤いラインは退色してブラウンになり、
やがて背骨が曲がり、やせ衰えて死んでしまう・・・その間ほぼ2〜3ヶ月。長い。慢性的な病気。
その病気はいったいなんなんだろう?市販の魚病薬がまったく効かない!治療法は無いのだろうか?
そんな疑問から調べてる気になりました。その実体は古くから知られている人畜共通の病気、、、
以下の文章は最後に書いてある文献等、特に"Tuberculosis in Fishes"からまとめました。

*巷で「ネオン病」と言われているのには少なくとも2種類あるようです。ひとつはネオンテトラがかかる病気と言うことで抗酸菌症、もうひとつは感染力が極めて強く、バタバタと水槽壊滅に導くような病気。後者はひょっとするとカラムナリスによるネオン病かもしれません(参考:日本動物薬品)。今回はじわじわと症状が進み骨まで犯す前者について述べたいと思います。



<はじめに筆者注>
菌は古くから染色によっても分類され、抗酸菌、というのは酸処理しても退色しない菌のこと。Ziehl-Neelsen染色が行われる。またすべての抗酸菌はグラム染色陽性である。
結核(Tuberculosis)、という言葉は結節を形成する、という意味であり、それがこの病気の大きな特徴である。


 抗酸菌染色により同定される菌によって引き起こされる感染症は、他の動物やヒトだけでなく、魚に対しても注目されている。
 最初の魚の症例報告は1897年と1910年になされたが、最初の病原菌の同定は、1926年にフィラデルフィア水族館の熱帯珊瑚礁の魚をサンプルとして行われ、肝臓・脾臓・腎臓・卵巣・心嚢・眼からMycobacterium marinumが同定された。

 
Mycobacterium marinumは、はじめは海水魚だけにしか感染しないと思われていたが、今ではあらゆる種属、温帯や熱帯の海水魚やカエル・ワニ、水泳用のプールそしてヒトの病気からも検出されている。魚から単離された菌の生育適温は18-20℃だが、ヒトから単離された菌は30-37℃で生育する。

 Mycobacterium fortuitumはネオンフィッシュから1953年に単離され、1959年に同定された。増殖温度は18-42℃で、海水魚から爬虫類・家畜やヒトまで病原性を示す。結節障害は主に肝臓や腎臓に認められ、一般的に脾臓には関与しない。進んだ症例では骨格がやられ、変形する(<*ネオン病の最期では尾の付け根辺りから曲がってしまいますよね)。菌の形状は短い桿状または球状である。

 サケからはMycobacterium salmoniphilumが同定された。水産上で問題となった唯一の例は、米国西部諸州の孵化場のサケ科魚幼魚である(当時)。

 Nocardia asterioidesはネオンフィッシュから単離され、パラダイスフィッシュ、スリースポットグラミーに病原性を示したが、金魚には感染しなかった。Nocardia感染はマスや他の種でも観察された。Nocardiaは完全な生活環を示し、芽胞から発芽し分裂して分枝する。形状は小さい球状から長細い分枝した桿状まで様々である。

 オランダのユトレヒト大学では、結核症状を示す水族館の魚から徹底的な調査を行い、約50種の抗酸菌を同定した。
 水族館の魚の結核がどこから始まったのかは、輸入された野生の熱帯魚から検出されたので不明である。ヨーロッパではサケ以外の野生魚にはみつからないが、北アメリカでは8%のMountain Whitefishサンプルに、菌を多量に含むマクロファージから成る結核(結節)を持っていることが報告されている。(*<生体防御を担う細胞が、菌を食べようとしているわけです)。
 Nocardiaは土壌中から単離され、動物やヒトに病原性を示す菌はacetamidase活性を持ち、この酵素活性のない菌は通常無害である。



<症状>

 症状は最初の感染源がどこであるかにより様々であり、感染魚は長期間正常のように見え、色が褪せてきたり、ヒレを畳む、不活発な動きや食欲不振を見せるまで気付かないことが多い。
 
皮膚がやられた場合は、いずれ潰瘍化し穴があいてしまう黒い斑点や傷口が生じる。ヒレがすり切れたり、鱗が突出し鱗が落ちてしまうこともある。
 
筋肉中の結節の塊はライトブラウンのスポットとして現れ、外部にむかって破裂することがある。腹部では結節が破裂することにより、穿孔を生じる場合もあり、この場合、菌は飼育水中に連続的に放出され、感染を広げるひとつのルートとなる
 
が感染した場合は、眼の後ろに結節を生じることにより、眼球突出し失明することがある。一般的に眼の場合は、体の他の部分に原発巣である病害が存在する。
 
内部器官が侵された場合は、連続的にやせ続けるか、逆に腹膜炎を起こし腹が膨れてくる。浮き袋が感染した場合は、内部に血清がたまり、病魚は平衡を保つことが出来ず、ひっくり返ってしまう。
 感染は時により
骨格系に広がり、脊柱の湾曲やヒレの変形を引き起こす。これはM. fortuitum感染の場合によく見られる(*<ネオン病!)。
 結節はあらゆる内部器官に発生し、黒い壊死した組織を含む、小さい灰色か黄色の柔らかい結節として認められる。大きな結節は腫瘍のように見えることもある。


<魚の結核とヒトの健康>

 Mycobacterium marinumはスイミングプールとヒトの傷口から1954年に単離され、スイミングプール(水族館)肉芽腫と呼ばれている。手指の皮膚に潰瘍や結節を生じ、その後リンパ節炎になった子供や、手足や頬に結節性炎症性の病変を示した例が報告されている。比較的低い体温の皮膚、特に手足に炎症を起こすのは、この菌の生育温度が低いためであろう。しかしヒトから単離された菌は、魚では通常生育できない高温37℃でも生育し、高温に対し適応しているとも考えられる。

 Mycobacterium fortuitum家畜並びにヒト、カエルや亀を含む広範囲の冷血動物に病原性を持ち、ヒトでは傷口感染だけでなく、肺やリンパ節、他の内部器官にも病原性を持つ。その生育温度範囲18-42℃は、冷血動物とほ乳類にまたがって感染する能力を充分備えている。ルーチンの医療細菌学ではM. tuberculosis(結核菌)と取り違いやすいが、マイナーな結核治療薬でないと効果がなく、注意が必要である。

 Nocardia asterioidesは魚の抗酸菌の中でヒトの健康に対してもっとも重要である。この菌は広範囲な症状を示し、肺炎や縦隔炎、皮下膿瘍、急性ブドウ膜炎(眼)や眼球突出、副鼻腔炎、そして大脳膿瘍や髄膜炎さえ引き起こす。

<まとめ>
これらの事実を踏まえ、疑わしい魚の取り扱いには充分注意が必要であり、
手袋をはめ、水に直接触れることを避けるべきである。うっかり触ってしまった場合には消毒薬を使用すべきである。死魚の処分にも十分な配慮が必要である。


<治療法>
 長い間、魚の結核は全く治療せず、汚染されたすべての魚と水草を廃棄する以外、何もすべきではないとされてきた。というのも、治療によりヒトに対して災いとなる
薬剤耐性菌を生む危険を冒すべきではないからである。しかし水と器具をきちんと消毒すれば、その危険はそれほどではないのではないかと、文中でこの本の筆者は述べている。
但し死魚を無分別に処分せず、焼却処分か生石灰の中に置くことを絶対としている。

<治療薬>
 
イソニアジドリファンピシンが高価な外来魚の治療に薦められてきており、
また
スルフィキサゾール(2mg/g of food)を、ドキシサイクリンまたはミノサイクリン(0.5mg/g of food)と併用し、経口投与すれば特に効果的であると記述している。注射も良い。
 また注射や経口投与の出来ない小さすぎる魚には、水中に
テトラサイクリン(30mg/L)を添加するのが急性期に有効である。しかし魚に食欲があれば、経口投与との併用を薦めている。
 外傷の場合には、
テトラサイクリン軟膏やペニシリン軟膏が効果的である場合がある。 ユトレヒト大学の調査によれば、薬剤耐性は菌株により様々であり、このことは治療計画を立てる上で障害となる。

<タンクの消毒>
 病気が発生したタンクには、水の中に抗酸菌が確実に存在していると考えなければならない。従って別のタンクに病魚を隔離した後、メインタンクは徹底的に消毒し、セットアップし直さなければならないと書いてある。(ドキッ
 生きている魚がいる場合には、
クロラミンTまたはBを10mg/Lでタンクに加え、その後24時間で水換えするのがよい。またオゾン処理するのも別の選択肢として非常によい。

<抗生物質について>
スルフィキサゾール:サルファ剤の一種。静菌的な作用。
サルファ剤の特性として、水に難溶性である。
特にpHが低下することで、沈殿を生じるし、逆にアルカリ性では吸収が悪くなる。
従って薬浴には不向きであり、薬餌経口投薬する。

テトラサイクリン:タンパク合成阻害剤(リボソーム30Sサブユニットに作用する)。静菌的な作用。薬剤耐性を生じやすい。

静菌的、というのは、いわば暴れん坊の頭を押さえているだけで、増殖は抑えてはいるが、殺しはしないということである。しかし静菌性抗生剤でも生体内では補体、食細胞などの生体防御機構より結局は殺菌される。 またテトラサイクリン系などは高濃度では殺菌的に作用する。


<対策>
さて家庭で熱帯魚飼育をしている場合、このような薬剤を入手するのは困難であるし、また薬剤をむやみに使えば薬剤耐性菌を生じ、却って良くない結果を招くかもしれない。高価な薬剤を使うよりは、魚を買い直す方が安く済むかもしれない。しかし、魚を隔離したまま死を待つのはあまりにも・・・と思われる方は、魚病専門の獣医さんを訪ねるといいかもしれない。魚が抗酸菌症にかかっていること、市販の色素系や合成抗生物質を使っても症状がよくならないこと、このことを説明すればもしかして扉が開かれるかもしれない・・・・この文献から大分たった今、もっと簡単で新しい薬があるかもしれない。
しかし人畜共通の感染病菌であることを踏まえ、その治療や取り扱いには充分な配慮が必要なことは言うまでもないだろう。



<補足:人への感染について>
質問が来たので補足しておきます。

もしあなたが抗酸菌症の魚に触れてしまったからといって、すぐに病気になるとは限りません。
なぜかというと、衛生的になったからとはいえ(いくら抗菌加工の物を使っても)、
常にばい菌に囲まれ暮らしているわけで、それを防御する
免疫機能を健康な人間は、備えているわけです。

実際に病気にかかる可能性の高いのは、
・免疫力の弱っているヒト(高齢者や小さな子供、免疫不全症などの患者さん)
・毎日水槽の手入れをしている感染源に触れる確率の高いヒト
(ショップのヒトとか、水族館勤務の人)
です。

だからといって安心するにはまだ早く、絶対にならないとは断言できません。
だから手袋や死骸の処理に注意を喚起しているのです。
もし手に傷口があったらすぐに洗浄してください。
傷口は消毒した方がいいでしょう。やっぱり手袋をして取り扱うのが無難です。

症状がでるとすれば、手の潰瘍や結核のような症状ですが、
出るまで時間もかかるし、その前にご自身の免疫系が働いて治ってしまう場合が多いと思います。
症状が出ても結核と似たような病気だと思ってください。病院も対応してくれると思います。
ただ人間の結核と混同されると違う菌種なので、薬が若干違います。
魚からうつったかもしれません、
と、HPにあるような内容(特に菌種)をコピーで渡してくれれば完璧です。
人間のお医者様は魚の病気を知っているとは限らないのです。

(参考文献)
・Tuberculosis in Fishes: Van Duijn, J. Small Animal Practice, 22, 391-411, 1981
・Bacterial Deseases of Fish: Blackwell Scientific Publications
・魚の感染症 恒星社厚生閣
・魚類薬理学-サルファ剤 緑書房
・魚類薬理学-抗生物質II 緑書房
・抗生物質の作用メカニズム 東京大学出版会

*このページを参照される方は、ひとことリンクのお知らせをくださいね(へんP)。

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